「超高感度匂いセンサ」

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研究代表者:
都甲 潔 (九州大学大学院システム情報科学研究院 主幹教授)
研究課題:
セキュリティ用途向け超高感度匂いセンサシステムの開発

技術解説

選択性と感度を兼ね備えた匂いセンサの開発を行っている.実際には,金属探知器やX線探知装置などの物理センサで一次探査を行い,爆発物の存在が疑われる場所を決定し,その箇所で爆薬有無の判定を行う匂いセンサを想定した.この匂いセンサはトランスデューサに表面プラズモン共鳴 (SPR)センサを採用することで高感度化を,また受容部に抗体(抗原抗体反応)を用いることで高選択性を実現した.
SPRセンサは表面プラズモン共鳴現象を利用して高感度に化学物質などを検出することが可能なセンサである.プリズム表面の金薄膜に対してプリズム側から光を照射し,その反射光強度が測定される.この時,金薄膜表面では,プラズモンが励起され,エバネッセント波がしみ出す.これらの波数が一致したとき共鳴が起こり,光のエネルギーが共鳴に使われるため,反射光強度は減少する.この反射光強度が最小となる入射角度を共鳴角と呼ぶ.共鳴角は金薄膜表面の屈折率に依存して変化し,屈折率は金薄膜表面の質量変化に応じて変化する.簡潔に表すとSPRセンサは一種の屈折率計である.
SPR測定装置はフローセルユニットを備えることでセンサとなり,リアルタイムに質量変化を観測することができる.化学物質の検出には主に抗原抗体反応が利用され,その場合,抗体の抗原に対する高い特異性により,選択的に化学物質を検出することができる.この抗体と抗原の高い特異性は,よく「鍵と鍵穴の関係」に例えられる.抗体は,生物の免疫システムにおいて,外から体内に侵入したウィルスなどの排除を担うタンパク質である.
抗原抗体反応を利用する測定手法では,IgGとよばれるタイプの抗体がよく用いられる.このタイプの抗体は,Yの字型で表され,分子量は約150,000である.ターゲットがタンパク質やウィルスであれば,それらに対する抗体を金薄膜表面に固定化し,抗体との親和性により結合する.結果として金薄膜表面で屈折率変化が起こるため,共鳴角度の変化が得られる.このような比較的大きな分子に対しては,直接測定でも高感度に検出可能であるが, トリニトロトルエン(TNT;分子量約227)のような低分子量の物質に対しては,質量変化が小さくなるために検出することが困難となる.そこで,低分子量の物質を測定する方法として間接競合阻害法が知られている.
間接競合法は,金薄膜表面に抗体ではなく,ターゲットと類似の構造を持つ化合物を固定する.低分子化合物をターゲットとする場合は,抗体を作るときに免疫原となる複合体抗原(ハプテン-タンパク質コンジュゲート)がよく用いられる.ターゲットに対する抗体は,この類似の構造を持つ化合物にも結合することができるし,ターゲットにも結合することができる.複合体抗原が固定化された状態で,一定濃度の抗体を流通すると,複合体抗原に抗体が結合し,大きく共鳴角変化が起こる.この信号が基準となる.結合した抗体は,酸性バッファやアルカリ溶液を流すことにより,解離できる.次に抗体溶液とターゲットを混合し,一定時間おいたあとに流す.このとき抗体の濃度は,基準の応答を取得したときと同じ濃度になるように調整し,またターゲットの濃度は一定の希釈系列となるように調整する.ターゲットと抗体が結合することにより,金薄膜表面に固定化された複合体抗原への結合が阻害され,共鳴角度の変化が,減少する.このときの応答の比から検量線(応答特性)が得られる.低分子と抗体の分子量は100倍以上違うため,抗体の結合量の変化を測定することで,低分子の濃度を高感度に検出できる.このとき抗体とターゲットの親和性が高いほど,高感度に検出できる.
金表面への非特異的な吸着を抑えるため,エチレングリコール鎖を有する自己組織化単分子膜を被覆し,TNTのpptレベルの検出を可能としている.また,TNT,DNT,RDXに対する抗体を研究グループで独自に作製している.また,抗体と爆薬を混ぜずに別々に流し,高感度(サブppb)かつ短時間(1分)で測定可能な置換法という方法も確立している.

概要図

論文等

  1. P. Singh, T. Onodera, Y. Mizuta, K. Matsumoto, N. Miura and K. Toko, “Novel DNP-KLH Protein Conjugate Surface for Sensitive Detection of TNT on SPR Immunosensor”, Sensors and Materials, Vol. 19(5), 261-273 (2007)
  2. D. R. Shankaran, N. Miura, “Trends in interfacial design for surface plasmon resonance based immunoassays”, J. Phys. D. Appl. Phys., 40, 7187-7200 (2007)
  3. T. Kawaguchi, D. R. Shankaran, S.J. Kim, K.V. Gobi, K. Matsumoto, K. Toko, N. Miura, “Fabrication of a novel immunosensor using functionalized self-assembled monolayer for trace level detection of TNT by surface plasmon resonance”, Talanta, 72, 554-560 (2007)
  4. Y. Mizuta, T. Onodera, P. Singh, K. Matsumoto, N. Miura, K.Toko, “Development of an oligo(ethylene glycol)-based SPR immunosensor for TNT detection”, Biosensors and Bioelectronics, Vol.24, pp.191-197(2008)
  5. P. Singh, T. Onodera, Y. Mizuta, K. Matsumoto, N. Miura, K. Toko, “Dendrimer modified biochip for detection of 2,4,6 trinitrotoluene on SPR immunosesnor: fabrication and advantages”, Sensors & Actuators B, Vol.137, pp.403-409 (2009)
  6. 6. K. Nagatomo, T. Kawaguchi, N. Miura, K. Toko, K. Matsumoto, “Development of a sensitive surface plasmon resonance immunosensor for detection of 2,4-dinitrotoluene with a novel oligo (ethylene glycol)-based sensor surface”, Talanta, Vol.79, pp.1142-1148 (2009)

関連特許

  1. 1. “混合SAMの作製方法”,発明者 小野寺武,水田 完,都甲 潔,出願人 国立法人九州大学,特願2008-059057(2008.3.10)

関連リンク

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