「身体地図機能を有する事故サーベイランス」

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研究代表者:
西田 佳史 (産業技術総合研究所 デジタルヒューマン 研究センター チーム長)
研究課題:
事故予防のための日常行動センシングおよび計算論の基盤技術

技術解説

1歳以上の子どもの死亡原因の第1位は、不慮の事故であり、ここ40年間傾向は変化していない。この問題を解決するには、事故に関する詳細な情報を収集し、事故の原因を究明する必要がある。しかしながら、子どもの事故予防につながるような事故情報の継続的な収集や共有はなされていない現状にある。一方で地理情報技術の分野では地球上の様々な情報を、位置情報をベースとして記述することで、異分野の情報を統合したり、分野内外での情報共有を行うための地理情報技術(GIS)が発展している。そこで、本研究ではGISの考え方を応用し、子どもの身体上における傷害の位置情報をベースとして事故に関する詳細な情報を記述・管理する、身体地図機能を有する事故サーベイランスシステムの構築を行った(図1)。

開発システムで実現された機能は大きく分けて次の5つである。1)事故情報収集機能:事故に遭った子どもの年齢や発達段階といった人の特徴、事故の種類や事故に関わった製品など事故の特徴、傷害の種類や身体上における傷害の位置・形状など傷害の特徴が収集可能である。特に傷害部位はソフトウェア上に表示された三次元人体モデル上に傷害の位置・形状をペイント入力することで、位置情報として収集可能である。2)事故情報蓄積・管理機能:入力された事故に関する情報を、傷害の位置情報と関連付けてデータベースに保存する。3)事故情報検索機能:キーワード入力によるテキスト検索によって事故の個別事例の検索が可能である。また身体上の位置指定からの空間検索も可能である。4)事故情報解析機能:収集した事故情報の、傷害統計や身体空間統計といった統計解析や、子どもの事故の因果推論が可能な確率的因果構造モデルの構築が可能である。5)事故情報の共有:収集した事故情報を広く公開するために、Web上で事故情報を検索できるようにシステムを開発した。一部機能に関しては、2009年2月11日よりWebサービスとして公開を開始した(図2)。

開発したシステムの運用試験を国立成育医療センターにて行った。運用を通じて、2006年11月から2008年6月の期間に、3,685件の事故情報を収集した(図3a)。提案システムの有用性を示すために、収集した事故情報を用いた統計解析として、傷害統計と身体空間統計を行った。1)傷害統計:子どもの年齢と事故に関わった製品の関係について分析した。その結果、子どもの年齢によって起こしやすい事故が判明し、子どもの発達段階と製品の関係が示唆された(図3b)。また傷害面積の統計解析についても行ったところ、傷害面積と頻度の関係はべき乗則に従うことがわかった。2)身体空間統計:収集した傷害の位置・形状を重ね合わせることにより、身体上でどの部分を受傷しやすいかを示す傷害の頻度の可視化が可能となった。頻度の可視化機能を用いて左右差があるかどうかについての検定も行った。カイ二乗検定の結果、頭部と大腿に傷害の発生頻度に有意な左右差があることが知見として得られた(頭部p=0.010、大腿p=0.014<0.5)。以上の解析は本システムによって初めて可能となった解析である。

概要図

図1.身体地図機能を有する事故サーベイランス

図1.身体地図機能を有する事故サーベイランス

図2.身体上の傷害部位検索ソフトウェア

図2.身体上の傷害部位検索ソフトウェア

図3.(a)収集した傷害データ (b)年齢と傷害に関連した製品の関係

図3.(a)収集した傷害データ (b)年齢と傷害に関連した製品の関係

論文等

  1. 坪井利樹, 北村光司, 西田佳史, 本村陽一, 高野太刀雄, 山中龍宏, 溝口博, "身体地図機能を有する事故サーベイランスシステム," 人工知能学会誌, Vol. 24,No. 6, 2009 (in press)
  2. Y. Nishida, Y. Motomura, K. Kitamura, T. Yamanaka, "Representation and Statistical Analysis of Childhood Injury by Bodygraphic Information System," GeoComputation 2009, November 2009 (in press)
  3. T. Tsuboi, Y. Nishida, M. Mochimaru, M. Kouchi, H. Mizoguchi, "Bodygraphic Information System," Proc. of The 9th World Conference on Injury prevention and Safety Promotion, pp. 79, March 2008
  4. 坪井利樹, 西田佳史 , 持丸正明, 河内まき子, 山中龍宏, 溝口博, ”身体地図情報システム," 日本知能情報ファジィ学会誌, Vol. 20, No. 2, pp. 155-163, 2008
  5. 西田佳史, 坪井利樹, 持丸正明, 河内まき子, 山中龍宏, 溝口博, "身体地図情報システム," 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会'07講演論文集, pp. A2H11, May 2007

関連特許

関連リンク

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