「超小型ポジトロン断層撮像装置PET-Hat」

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研究代表者:
本田 学 (国立精神・神経センター 神経研究所疾病研究第七部 部長)
研究課題:
脳に安全な情報環境をつくるウェアラブル基幹脳機能統合センシングシステム

技術解説

1990年代以降爆発的な進歩を遂げた非侵襲脳機能イメージング、すなわち非破壊的に人間の脳の活動状態を観測する手法は、感覚、運動、認知、言語、思考など、人間のさまざまな脳機能を客観的に計測することを可能にした。ところが、感情・感性といったデリケートな心の動きにともなう脳活動を計測しようとすると、独特の障壁が立ち現れる。特に深刻なのは、脳活動計測に必要な手法や環境自体が、被験者に不安や恐怖など無視できないネガティブな心理的・情動的バイアスを与える点である。脳機能イメージングの多くは、元来、医療用途として開発されたものであり、いわば病気にともなう「揺ぎない病理所見」を検出することを重視した設計になっている。感情・感性といった心を計測するといった側面からみると、大部分の非侵襲脳機能イメージングは、「非侵襲」という言葉に反して「破壊検査」ともいうべき乱暴さをもっていると言えるかもしれない。美や快といったポジティブな感情・感性をはじめとする「移ろいゆく脳機能」を対象とした場合、観測行為が観測対象を変容させるという深刻な「観察者効果」の問題に直面することになるのである。
 こうした問題意識にもとづき、できるだけ被験者を拘束することなくストレスを低減した状態で脳機能を計測可能にする超小型ポジトロン断層撮像装置(PET装置)を開発した。開発コンセプトは、安楽椅子に座った被験者にPET検出部を帽子のように装着し、被験者の動きに合わせて装置が一定範囲内で自由に動くようにすることで、頭部の動きの撮像データに対する影響をなくしつつ、拘束感の少ない測定を可能にすることである。これを実現するため、PET装置の検出器リングを軽量化するとともに、2重のカウンターバランス方式で支えることにより、被験者の頭部にかかる重量負担を著しく軽減した。加えて、ノート型パーソナルコンピュータによって脳活動計測の操作制御を行うことを可能にした。性能面では、4mmFWHM程度の空間分解能と、視野中心での感度1%程度を確保し、良好な脳ファントム画像を得ることができた。さらに計測時に装置が発生する音響騒音を、市販のPET装置よりも20dB程度静粛な40dB程度に抑えることに成功した。このようにして開発した超小型開放型PET装置は、検出器部分が帽子(Hat)に似ていることから、PET-Hatと命名した。
 PET-Hatは、感情・感性をはじめとする「移ろいゆく脳機能」の計測に有効であるだけでなく、可搬型で被験者の体位にあわせて計測することが可能であるため、意識障害や脳死患者の診断等にも威力を発揮することが期待される。

概要図

PET-Hatを装着した図

PET-Hatを装着した図

論文等

  1. Wagner HN, Creating a New, Smarter Health Care. Journal of Nuclear Medicine, Vol. 50, No.9, 14N-32N, 2009
  2. S. Yamamoto, M. Honda, K. Shimizu, M. Senda, Development of PET-Hat: wearable PET system for brain research”, Society of Nuclear Medicine 56th Annual Meeting, Toronto, Canada, June 13-17, 2009
  3. 山本誠一, 本田学, 脳研究のための装着型PET装置:PET-Hatの開発, 第49回日本核医学会学術総会, 旭川, 2009年11月2日

関連特許

  1. 山本誠一,本田学,大橋力,前川督雄:「PET支持装置」,特願2009-042691号(国内),2009年2月25日.

関連リンク

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